羽田がハブ空港になる? 40万回発着って本当?
航空ジャーナリストの坪田敦史です。ハブ空港に関して、先週から問い合わせをいろいろ頂いております。
前原大臣の発言が発端となった一時的なハブ空港騒ぎですが、冷静に考えると、さほどすごいニュースではないと思うんです。
羽田空港に新しい国際線ターミナルと4本目の滑走路を作ってるのは事実です。現在もすでにアジア路線の国際線が羽田から出てるわけで、「さらにアジア便数を増やして今後、欧米オセアニア便も飛ばしましょう」という発想になるのは普通で、それは既に計画済みです。
多少でも利便性が良くなるのであれば、私のように旅客機をよく使う者にとっては、いい話です。しかしながら、客観的に空港事情を考える必要もあります。
■羽田・成田とインチョンをあまり比較しないように
「打倒!インチョン!」の発想は、前向きで結構なのですが、羽田がインチョンにかなうだけの土俵があるかといえば、最初から最後まで、ありません。
韓国には国内線がそれほど多くないし、国内線はむしろソウル中心部に近い従来の金浦空港を使っている航空会社が多いので、日本の状況と比較すること時点で無理があります。
インチョンは最初から世界のハブ空港を目指してソウル郊外に建設した巨大空港です。言ってみれば、羽田しかなかった時代に、郊外の成田に空港を建設して、そこをハブ空港化したという話で、話はまったく逆です。
ご存じのように、成田は土地の問題などで、巨大空港にはなりませんでしたが。
羽田のほうは、首都に至近距離という好条件ですが、すでに多くの国内便がある中で、どのくらい国際線を増やせるのかは限られています。ある程度、まとまった数が増えなければ利便性が高まらず、それなら成田で十分ということになります。第4滑走路の完成後、1日最大で80便増やせるとしてますが、国内線の発着枠に割り当てることも忘れないで下さい。
24時間化といっても、公共交通機関が終了するam0:00~6:00のような深夜に運航する便があるとは思えません。本気で24時間化するなら、トランジットホテルも必要だし、ターミナル施設のショップを24時間営業したりしないと。でも、そんなの無理。従業員を3交替制で働かせないといけないわけで、まず採算とれない。
たくさんの国際便が来ると、例えばクルーが宿泊する施設ももっと必要になります。現在の羽田/アジア便のクルーの多くは、東京に宿泊せずに、乗ってきた便で折り返し帰って行きます(日帰りです)。
ハブ化のためには、空港周辺のインフラをもっと強化する必要がありますが、羽田周辺にはそうした余裕がないという実情です。また、深夜の騒音問題は深刻ですね。
ただ、ヨーロッパ路線やオセアニア路線で、21時とかに羽田を出発する深夜便は、便利でしょう。日本の地方都市をゆっくり昼に出てきて、夜に羽田で乗り換えて、機内で寝て、現地に朝、到着できますから。都心で働く人が、仕事終えてすぐ国際線で旅行に出ることも可能です。
エールフランス、英国航空、KLM、ルフトハンザ航空、タイ航空、ジェットスターあたりが利便性のいい時間帯に羽田に来てくれれば、かなり都合がいいです。アメリカ系のキャリアは、現在、十分に成田をハブとして活用しているので、あまりメリットがないかもしれません。
■航空管制の能力(空域のキャパシティ)
技術的な観点で、政治家が言ってない、またマスコミも注目してない部分があります。
第4滑走路の完成で発着数を年間29万回から40万回に増やせるとしていますが、すぐにそんな数を飛ばせられるわけではありません。
一つには管制許容量の問題です。
滑走路はあっても空域が対応できるかどうか、まだ分からないのです。来年には、成田と羽田の進入管制区を統合して「広域進入管制」が行われるようになります。両方の発着便が千葉県を中心とした空域を多く使っており、空域は一つなんです。そんな中、どれだけの航空機を飛ばすことができるか、その能力が問題なのです(実は空港だけの問題ではないということです)。
あと、首都圏の空域だけでなく、日本全体の航空路の処理能力も計算しないといけません。一定時間に交通量が集中してしまうと、遅延が発生するため、発着時間を分散させない限り、羽田の年間40万回という数字は達成できないでしょう。
第4滑走路が完成してからの羽田空港内の誘導路の使い方についても、現在研究中です。風向きによって、滑走路の使用パターンが異なってきますが、そうした状況下でも4本の滑走路をうまく使い分けて遅延を出さずに便を運航させられるかどうかは、地上走行の管制能力もカギを握ります。
少なくとも滑走路を4本同時運用するわけではないんです。現在、羽田は滑走路が3本ありますが、1本は横風用ですから、3本同時に運用されることは通常ありません。
■インチョン(仁川空港)は便利か?
インチョンがそれほどすごい空港なのかと聞かれると、私としては、「まあまあ」と言った返事です。確かに、利用者の評判はとてもいいです。綺麗だし、分かりやすいし、施設が整ってて、乗り換えもスムーズです。私も一度だけアシアナ航空でインチョン乗り継ぎを体験しています。
ただ、日本人が格安航空券のメリットを生かしてインチョンが便利だという事例は、基本的に大韓航空かアシアナ航空を利用した場合に限ります。
そして、グローバルな観点での人の動きは、東京もソウルも、ユーラシア大陸の端っこなので難しい条件にあります。香港やシンガポールのほうが、地理的なメリットは上でしょう。それに、東京という「都市」に世界の人が魅力を感じてもらわないとエアラインの就航と集客は成功しません。現在でも「日本の物価は世界一高い」みたいな印象が世界の人々にはあって、世界経済の低迷の中、日本がアジアの中で注目を浴びる存在かどうか?
あと、インチョンのハブ成功論は、貨物便も含めての話ですが、羽田が貨物便でハブ空港になることはあり得ません。羽田か成田かというと、これは絶対に成田です。
普段ブログでオピニオンは書かないので、何が言いたいのかはっきりしないかもしれませんが、これまでの報道で抜けていた部分を補って頂き、何かのご参考になれば、と思います。
(坪田敦史=航空ジャーナリスト協会 会員/航空交通管制協会 会員)
【データ】
・インチョン空港=50カ国169都市と接続(日本へは28都市)
・成田空港=34カ国93都市と接続(国内線は8都市)
インチョン空港の年間利用数3000万人。貨物取り扱い量は世界第2位。国際空港評議会のランキングで4年連続最優秀空港に選ばれる。
【ボーイング777-200の場合の着陸料】
成田空港(46万円)、セントレア(46万円)、関西空港(57万円)、香港(24万円)、上海(18万円)、インチョン(15万円)
▼▼10月19日のZAKZAK(夕刊フジ)に掲載された私のコメント記事▼▼
羽田ハブ空港化“着陸困難” 利便性なら韓国・仁川空港が上
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